でも、いまいちどう反応していいのかわからず不動になれば、すべて理解してなのかおかしそうに小さく笑った彼が私を抱きしめたまま声を響かせた。
「・・・・おやすみ千麻ちゃん」
「・・・おや・・・すみ・・なさい」
このまま?と、戸惑いながらも反応を返すとクスリと笑った彼が目蓋を下す。
数分?
よほど疲れていたのかわりとすぐに耳に入る彼の寝息。
力の抜けた腕がしっかりその重みを私に与えて、彼が眠ったのであればもういいだろう。とその腕から抜けようと指先を走らせた。
力を込めたのは僅か。
すぐにピタリと動きをやめ不動になる。
そして彼の胸に埋める形になっていた顔をゆっくりと上げれば何の裏も表もない寝顔を捉えて自分の手をそっと外した。
再び体に感じる彼の重み。
でも不快じゃない。
困るほどに。
そうただ・・・私を困らせる小生意気な上司であった筈なのに。
今こうしてキスを交わしたり、同じベッドでぬくもりを分け合って横たわったり。
気が付けばそれが心地いいと感じるほど当たり前で馴染んだ時間になっている。
そして小さく浮上してくる感情は決して綺麗な物じゃない。
今まで馬鹿らしいと跳ね除けていた【優越感】【独占欲】。
会社では絶対に他人に見せないこの無防備な姿を、どこかで小さく自分だけの物だと思っている自分がいる。
「・・・・・嫌だな・・」
自分の呆れる対象である感情にポツリと不安混じる不満を零すと、自分の左手を視界に届く範囲に動かし見つめた。
何度確認しようが失ったままの夫婦の証。
戻らないかと馬鹿みたいに念じるように見つめ、ゆっくりと彼の寝顔に視線をずらした。
「・・・・別に・・・執着してないわけじゃないのよ?」
たかが指輪なんて思ってない。
結婚の誓いとか夫婦の繋がりという点では確かに私の意識では『たかが指輪に』と思う感情がある。
だから、今更新しい指輪が欲しいなんて思わない。
貰っても困る。
でも、でもね、
この指にはあの感触を取り戻したいと私も思う。
夫婦の証云々の前に・・・、
「あなたが初めて私に贈ったものだから」
らしくもなく、センチメンタルかしらね。
でも、また再確認した。
私にはあの指輪が必要なんだって。
代わりがきかない。
あの指輪であることが重要なのだと。
だから、
また彼に近づくけど・・・許して・・・?



