まだはっきりと不機嫌ではないにしても、食い違う意識の差にさっきの穏やかさはスッと引いて真顔で私を見つめてくる。
それに負けじとその目を見つめていても、どうも暴れる心臓が不安を叫ぶ。
どこか気まずい静寂に先に響いたのは彼の声。
「俺は・・・千麻ちゃんは俺の物だって周りにしっかり示したいだけ」
「・・・・・」
「もう・・・一瞬でも隙を作って他の誰かに持っていかれるなんて御免だしね」
あっ・・・・。
一瞬の残像。
ギシリとベッドが揺れると彼が立ち上がりクローゼットの方へ歩いていく。
その後ろ姿を見送って、自分の失態と動揺に軽く悶絶してベッドに倒れこんだ。
馬鹿・・・・、私の大馬鹿。
当たり前じゃないか。
彼が形にこだわるのも、痛いほど独占欲見せるのも。
その傷あったからこそ今の私たちの関係があるんだ。
手に入れたと過信して、それを奪われた彼の痛い記憶。
今度こそ、もう二度と、
その悲痛なまでの感情や意思の必死さを理解する。
そして・・・・、
同時に今まではなかった痛みも感じる。
それは自分の中で。
彼がその悲痛さを強く出せば出すほど、それだけ失った物の大きさを意識させられ。
チクリと痛む。
小さくても、微弱でも、確かな痛み。
彼の悲痛さを再確認したあの一瞬。
嫌な女の私が反応した。
それに名前を付けるなら・・・・【嫉妬】
今更・・・、
今更だ。
でも確かに愛されて、今も彼の傷となりえる彼女の残像に小さく心が嫉妬したんだ。
「・・・・・・馬鹿らしい」
らしくもない。
こんなのは逆恨みのような浅はかな感情。
落ち着けと、ゆっくり息をすると天井を仰いだ。
そして何の気なしに天井と視線の間に自分の左手を滑り込ませる。
飾り気のない素肌のみの手指。
確かに彼から与えられた印があった筈なのに。
その手をギュッと握りしめて馬鹿な感傷だと眉根を寄せた。
そんなタイミング。
「・・・・一応・・」
「・・・っ・・」
「・・・・責めてるわけじゃないから」
不意に響いた声に驚いて体を起こせば、その身に下着とズボンだけは身に着けた彼がクローゼットへ通じる扉のドア枠に寄りかかってこちらを見つめ。
どこか気まずそうにそう告げると眉尻を下げたまま口の端を軽く上げた。
「・・・・・何故、わざわざそんな事を?」
相変わらず可愛くない返答だ。
そんな理由わかっているくせに。
もしかして・・・・言われたかったのだろうか?
「・・・・千麻ちゃんと気まずいのは・・・嫌」
そんな風に困ったように微笑んで、
『仲直りしよう』という彼の意思表示を。



