触れて啄ばんで必然の様に濃密になるキス。
さっきの牽制なんて無意味で端からすでに元には戻れないというような絡み合うキス。
馬鹿げてる。
仕事の一貫であった筈のこの関係に小さく依存し始めている自分が。
でも・・・まだ小さくだ。
ゆっくりと絡み合っていた唇を離していく。
顔の距離が離れればいつだって端整な彼の顔のすべてを捉え、見飽きていても感心してしまう。
そして長い睫の目蓋が開けば覗く宝石のようなグリーンアイ。
思わずそれに触れたくなって目の横ぎりぎりに指先走らせれば綺麗な顔がクスリと笑った。
「見惚れる?」
「・・・このグリーンアイだけは」
「そこは素直に『ハイ』って言ってよ」
「・・・・・そんな素直な私は面白くもないでしょう?」
僅かに微々たる弧を口元に描けば、一瞬言葉に呑まれて驚きを見せた彼がすぐにくしゃりと無邪気に笑う。
そしてスッと動きを見せた彼の手が私の左腕を滑り降りて指の付け根で動きを止めた。
「千麻ちゃんには参るね・・・・、またしっかりと形だけでも縛りつけておかないと俺の不安が尽きないや・・・」
「不安なんてまた大げさな」
「・・・不安だよ?まったくの不安要素なければこの指にはまだしっかり夫婦の証があったはずだし」
そう言った唇が私の左薬指を食んで確かにあったはずの物の有無を示し、同時に浮上する懸念すべき危険人物を現してくる。
ああ、記憶した匂いが鼻をくすぐる。
嫌味な笑みやあの声も。
「・・・千麻ちゃん?」
呼ばれた響きに我に返って、ぼんやりとした眼差しで彼を見つめた。
彼もまた私をまっすぐに覗き込んで珍しいともいえる私の意識のお留守に眉を顰めた。
あっ、まずい。
何故そう思ったのか。
本来はっきり告げるつもりだったのに。
不意に恭司と行動してしまった今日の事態を。
『まずい』と思ったという時点でこの事態に後ろめたさを感じている自分への理解。
そして焦った事による誤った判断。
言い訳すれば『変に誤解して不機嫌になってほしくない』というところか。
ああ、馬鹿な言い訳。
そんな浅はかな嘘を馬鹿なことだと思っていたから今までは事実しか語らなかったのに。
「・・っ・・・指輪は・・・必要ないです」
「・・・・何で?」
「ただでさえ一度頂いたものも高額であったのに、再度私に大金かけて頂かなくてもいいという事です」
「・・・・俺とは夫婦だって形ある物では縛られたくない?」
「そうじゃなくて、・・・・・・むしろ、必要ですか?何よりも法律で夫婦としてもう縛っているのに形としてもそれを示すことが」
ああ、多分・・・後ろめたさからは誤魔化した。
でも誤魔化し方の選択の失敗。
彼の不機嫌を下手に掠めた気がする。



