「俺・・・今めちゃくちゃときめいたよ千麻ちゃん」
「副社長がときめいてどうするんですか?」
「だって、千麻ちゃんのその普段からのクールさ狡い!!落として落としていきなり上げるから、完全にそのギャップにキュンとする!」
「・・・・・役得です」
「俺も気合入れなきゃなぁ」
フッと困ったように口の端を上げた彼に軽く息を吐くと、持っていた手帳をパタリと閉める。
そして窓の外に意識を走らせ、そして彼を振り返り、
「お仕事ですよ」
「わかってますよ」
私の『気持ちを切り替えろ』の表示ににっこりと微笑んだ姿が体を起こすと表情を少しずつ変えていく。
そう、仕事の時だけはいつもと違い少し大人びた表情を見せる彼なのだ。
彼を喜ばせる気はない。
そして付けあがらせる様な一言は言わない。
だけども、彼に対しての好感を一つ上げれば、、
こうして仕事に直面した時に緩やかに鋭くピンとした空気を作り出していく姿が私は好きだと言える。
絶対に口しないけれど。
こうして敷地内に入ってしまえばもう夫婦ではなく秘書と副社長。
車の動きが止まると先に下り彼の方の扉を開けた。
そして品の良い香りをふわりと風に乗せてゆっくり降り立てば、もう彼は副社長なのだ。
そして、私こそ今日は覚悟と気合が必要だと息を吸う。
何に?
決してさっきの彼とのゲームに対してじゃない。
女の執念、嫉妬に対して。
いつもの様に彼についてクリアなガラス張りで光りを存分に取りこんでいるフロアをヒールを響かせ歩きはじめる。
出勤時間のそこは一般社員も溢れていて、こちらの姿に気がつくと言葉も交えて頭を下げる。
それに愛想よく反応して挨拶を返す彼はさっきまでの姿でない。
若いけれど実力備わる憧れるべき重役なのだ。
そしてそんな彼が女子社員の色めいた憧れになるのも必然。
こうして歩きぬけている間にも何人の女子社員がチラチラと通る姿を確認していたか。
わざわざ他の女子社員を急いで呼び、呼ばれた方も馬鹿みたいに焦って確認しに来るほど。
滑稽。
この男は単なる会社の重役で、アイドルの類ではないというのに。
心の中で呆れ果てているというのに、今まで羨望の眼差しを彼に向けていた女子社員達は必ず次に私を見る。
とてもとても嫌悪や嫉妬感じる眼差しで。



