そしてワザとらしく嫌味な返答。
「ああ、あれ。・・・・返してほしかった?」
「今すぐ窃盗罪で警察に突き出してもいいのよ」
「こうやって協力している俺にひどい扱いだね」
「早く返しなさいよ」
言いながらその手を差し出せば、にっこりと微笑んだ彼がその手にポンと手を乗せる。
決して指輪を返したわけじゃない。
ただ手を乗せただけ。
「ごめん。まさか昨日の今日でこんな運命的に再会するなんて思ってなかったから持ってない」
「泥棒」
「千麻のハートの?」
「馬鹿じゃない。もともとそんなに私にだって執着ないくせに」
そう言って彼の手を振り払うと、準備は整ったとステージ近くにいるはずの彼女らを追って歩き出す。
すぐにすっと隣に並んだ彼から例のごとく香る匂い。
過去に自分も好んだ筈の香りに今日も嫌悪抱いて、そして気が付いた懸念で少し体を彼から離した。
移り香があっては大変。
彼は恐ろしいほど鼻が利くのだから。
彼を見上げてからすぐに周りに視線を走らせていく。
考えてみれば見渡す限り彼女らに類似する姿の多勢。
探すのも困難だとうんざりし始めたと同時に疑問が浮かぶ。
「・・・・よく、この中でこんな格好の私を見つけたわね?」
「・・・・わかるでしょ。普通」
気が付いた事実に正直に驚いて彼に声を向ければ、珍しく逆に驚いたというような表情で返される言葉。
だけどもすぐに困ったように眉尻下げて微笑むと。
「千麻、俺の事軽く馬鹿にしてない?どんだけ付き合い長いと思ってる?」
「だって、明らかにメイク濃いし、こんな格好なんてまずする私じゃないでしょう?」
「・・・・わかるよ。・・・・千麻だったらすぐにね」
ニッと勝ち誇ったような微笑み。
その後にもお得意の嫌味を続けてくれればやりやすいのに。
何よ・・・。
どう反応すれば正解よ、今の・・・。
すっきりしないまま視線をステージに戻してモヤモヤとする。
勿論ときめいたとかそういう感情でなく、ただもどかしくて仕方ないのだ。
言ったのがこの恭司であるから。
絶対に自分の執着のようなものは見せないこの男だからだ。
「あ、千麻ちゃーん」
「恭司様~」
変に葛藤していた頭に入り込んだ声に余計な思考が中断され安心する。
ステージ前でその手を上げて存在を示す姿に気が付き急ぐでもなく近づいていく。
「どうでしたか?」
「うん、大丈夫だって~」
「音も入れれるし、映像もスクリーンに映せるって~」
そう言って嬉々とした表情の彼女らにまだ終わっていないのに成し遂げたような感覚で口の端が上がる。
じゃあ後はこのデータを係りの人に渡せばいいだけ。



