驚き、『何だその格好』という表情でもそれに否定的な印象は見えず。
むしろ紅潮した顔は好感とも感じる。
それに気が付けば軽くもたげる悪戯心。
カツンカツンと靴音響かせ座っている彼の少し低い目線の姿の前に立つ。
そして軽く身をかがめればいつものウィッグよりロングで艶やかな黒髪がさらりと滑り落ち揺れた。
一瞬彼の視線がその動きを追って、でもすぐに私の視線に戻ると息を呑む。
そんな彼の両頬に、黒のレースの手袋に包まれた指先を這わせて覗き込んだ。
「こういうのは・・・・・お嫌いですか?」
「無い!・・・・・って言い切れない自分に焦る」
馬鹿正直に反応した自分を認めた彼に思わず噴き出した。
さっきまで全力で否定的だった姿の一転。
くっくっくっと噛み殺したものの、目の前で笑われれば彼の不愉快も強まる。
まだ赤身差す顔でフンッと顔を背けたのに視線を戻すと宥めるように彼の顔を添えている手で前に誘導した。
「すみません。あまりに予想外の反応でしたから」
「まだ笑ってんじゃん」
笑った名残。
珍しく上がったままの口の端を指摘すると不貞腐れたようにまた顔を背けようとするのを軽く抑え込んで阻止する。
ここでへそを曲げられては彼女らの妨げになる。
今も不愉快露わのグリーンアイをまっすぐに覗き込んでニッと微笑むと自らその色味を顔に寄せた。
触れて啄んで『チュッ』と音を響かせ離れる。
そしてこの瞬間にやっと理解。
ああ、私は真っ黒なリップで唇を彩られていたのだと。
驚きで構築される彼の唇にはっきりと残る黒にクスリと笑うと汚さぬように手袋を取って自分の親指で彼の唇の黒を拭った。
「どうしたの?ダーリン、いつもの皮肉屋が不在かしら?」
「・・・どうしたのハニー、まるで欲求のままの大胆な性格だけど」
「・・・・・・ああ、言われてみれば。精神でも解放されてるんでしょうか?」
「普段からそれなら大歓迎だよハニー」
言いながら調子づいた彼が再度口づけを求めて顔を寄せたのに素早く指先を挟み込む。
もちろん不満げな彼のグリーンアイが非難する。
『何で?』
そんな眼差し。
だからこそ『何で?』に当たる彼女らを示して後ろに目くばせすれば、こそこそとこの流れを覗き込んでいた2人に彼が気が付いた。



