思わず口元を押さえて視線を逸らすと、正気に戻ったらしい彼の静かだけども不機嫌な声音。
「お前ら・・・何が言いたい?」
「誤魔化す気!?」
「千麻ちゃんって美人の奥さんいるくせに浮気とか最低!!」
「千麻ちゃんが美人なのは認識してたか」
「何それ!?」
「馬鹿にしてるの!?」
「お前ら2人とも馬鹿だろう!!」
そんな会話まで到達した瞬間。
「ぶっ・・・」
我慢の限界。
思いっきり噴き出すと一気に集中した視線に笑いを飲み込んだ。
そうして怪訝な表情の美少女達に肩の位置くらいで挙手すると声を響かせた。
「【美人】と称賛頂いた千麻ちゃんです」
そう告げれば一瞬唖然とする双子達。
その間を舌打ち響かせ私の方へ歩き抜けた彼が隣に立って肩に腕を回す。
「で?浮気が何だって?最低男がどうとか言ってたな?」
不愉快。
言われた全てが不名誉だと苛立つ彼の怒りの大幅は多分・・・。
欲求不満。
ただでさえあのタイミングの来訪を根に持っているのに、浮気疑惑で悪態突かれたのだ。
さすがに優しい兄にはなりきれないらしい。
なのにいつだってマイペースなこの姫様方ときたら。
「千麻ちゃん?」
「嘘、髪長い、可愛い」
「・・・どうも、ウィッグですが」
「おい、お前ら・・・先に俺に言うこーーー」
『可愛い~』
次の瞬間には彼の腕から引っ張り出され黒と白の美少女に囲まれた。
悲しいかな身長はこの2人の方が大きいから結構な威圧感。
そしてこの好奇心に満ちた目が恐い。
何故か恍惚とした眼差しで私を見つめ2人して交互に顔を覗き込んで目配せしては頷いている。
なんかあまり自分に良い予感はしない。
かといって、この2人に逆らえる術も無くただ静かに大人しくしていれば、伸びてきた手が私を掴みだすと引き寄せた。
彼女らの香水の匂いから、馴染んだ彼の匂いへの移動。
「お前ら、いい加減にしろ。こんな時間に連絡も無しに来訪して勝手に動くな」
あっ、この怒っている姿は会社でのそれとは少し違う。
怒っているけど愛情含みのそれは・・・【お兄ちゃん】の姿。
「あん、ごめんってぇお兄ちゃん」
「だって、あまりにも会社での千麻ちゃんと違うからぁ」
「その前に突然の来訪を謝れ」
「もう、何でそんなに怒るかなぁ?」
「何か不都合でもーーーー」
そこまで言いかけて2人の視線が私の格好に注がれる。
だから思わず同じ様に視線を自分に走らせてから彼女らに戻すと。
えっ?何そのさっき以上に恍惚とした含み笑い。
別にやましい事なくいつもこうですけど私。
いや、今日は確かにやましい事の後ですが。