もどかしい表情で早く言えと言わんばかりに私のスーツを摘まむさまはどう見ても大きな子供の様だ。
ああ、私・・・。
そんな表情のあなたを焦らすの大好きなのダーリン。
摘まんでいた指先を無視してパッと立ち上がるとスーツを直す。
そんな私を唖然とした表情で見上げてくる姿にゆっくり息を吐くと一言。
「副社長、まだ就業時間です。お仕事・・・お願いします」
余韻すっぱり切り捨て秘書モードでそれを告げれば瞬時に落胆した彼の百面相。
驚き、焦り、憤り、消沈。
それを一気に私に表情のみで示すとよろりと立ち上がり息を吐いた。
「・・・・千麻ちゃんには敵わない」
「あなたが賞賛くださった有能な秘書に恥じないように行動せねば。と思いまして」
「わかってますよ。わかってるけど・・・・・もう一回キスしとく?」
にっこり提案された言葉にわずかに口の端上げ微笑むと扉を開けて拒絶を示す。
「どうぞ、副社長」
「有能ですね」
「嬉しいでしょう?」
私の前まで歩いてきた彼が扉を潜り抜ける直前で私に嫌味交じりの言葉を落とし、それが苦し紛れな一言であると理解しているから嫌味に返す。
そうして2人で明るいローカの下に出れば、すぐに私たちなんて軽く上回る嫌味な笑みのその人が壁に寄りかかって片手を上げた。
「いいね、社内で逢引する夫婦」
「・・・社長、仕事お願いします」
「今の今まで茜と密室で業務外な個人面談してたのは誰かな?」
ああ、クソッ、今日ばかりは強気に出れない自分の立場。
それを理解して酷く愉快気に嫌味な言葉遊びを仕掛けてくる義父に舌打ちをかましそうになる。
それでもとりあえず社長。
とりあえず上司。
落ち着け千麻。
「残念ながら父さんが思ってるような色っぽい事態にはなってないよ。何せ勤勉すぎて有能な秘書の千麻ちゃんですから」
私が黙ってるのをいいことに彼も仕返しとばかりに嫌味な言葉で切り替えし、非難するように視線を走らせれば赤い舌を軽く覗かせニッと笑う。
後で倍返ししてやる。
そう決意して彼を睨みつけていればどうも突き刺さる視線に気が付き、嫌な予感しかしなくとも振り返れば予想通りの含み笑い。
彼よりもずっとずっと性質の悪い義父の含み笑いの一言は、確実に気を引き締めないとしてやられると息を吸った。
そのタイミング。
「で?俺に可愛い孫が出来る確率ってどのくらいになった?」
「・・・っ・・・お答えしましたよね?」
「いや、ほら変動しやすい確率でしょう?」
「株価じゃないんですから」
「いやぁ、今茜の株、千麻ちゃんの中でいい感じじゃない?それに伴って色々先読みしておきたいじゃない」
ニッと笑う黒豹。
グリーンアイが悪戯に笑って不満げな私を映しこむ。
不満げで少し赤い私を。



