ただ避ければ良いだけだった筈の手を、逃げるように持ちあげたら自然と目の前の姿を殴ってしまっていた。
パンッと綺麗に鳴り響いた音は瞬時にその場の注目を集める。
しかし人って逆上した時ほど留守な理性。
周りの事なんて一瞬忘れていた。
彼の口にした解釈や彼への批判に憤りの沸点越え。
「あんたの物差しで勝手に彼を測るな!!勘違いの忠誠心でたかがキスにあそこまで感じないわよ!あんたのキスなんて霞むくらいにね!!」
注目を集めたと同時に感情的に弾き出した声が静寂を生み出した後にざわめきを生む。
そして自分の冷静さの回復と羞恥心の浮上。
心臓が変な跳ね方をする。
耳の奥で鳴り響くそれに泣きたい気持ちを抱きながら恐る恐る視線を動かせば、痛いくらいに集まる視線と小声のざわめき。
そして悲しい事に私の言葉の中の当事者がその場にいる事態。
なるべく避けていた存在にようやく視線を移せば、いつからその位置にいたのか。
恭司より少し後ろで不動になっていた彼がさすがに茫然と驚愕のまま固まっていて、そのグリーンアイと視線が絡むと同時。
「千麻・・・趣味変わった?公開恥辱プレイ?」
さすがの恭司も集まった視線とあらぬ噂話に苦笑い。
そう、ただでさえ私と彼の結婚は今どちらかと言えば新しく有名な話題であったのに、自らその話題に拍車をかけてしまった現状。
自社他社の重役集まるこの場で、思いっきり目の前の男と関係があった事や、副社長でもある彼のキスに感じたとか叫んでしまった。
今・・・・この手に拳銃があったなら迷わずこめかみに当てて自害する。
なんで銃刀法違反なんだ日本。
そしてうっかり捉えてしまった・・・・義父である社長の意味ありげな頬笑み。
私の人生終わったかも・・・・。
「千麻ちゃーん。ねぇ、千麻ちゃん?」
「・・・・・・」
「資料室ジャックも飽きたでしょ?出ておいでよ~」
「・・・・っ・・無理・・・ここで静かに永眠します」
扉の向こうで雛華さんが根気強く説得しようと声をかけるのに、そんな言葉じゃ掻き消せない羞恥心で悶えて蹲る。
あの公開処刑の後に耐えきれなくなって逃げ出すと、一番近かったこの資料室に逃げ込んで籠城。
しっかり施錠すれば、すぐに追いかけてきてくれたらしい雛華さんが今の様に声をかけ続けてくれていたわけで。
その気持ちはありがたいと言えど、どうしてもその身を晒すまで気持ちが落ちつかない。
ってか・・・一生落ちつく気がしない。



