夫婦ですが何か?







「俺は私生活にまで秘書を必要としない」




「・・・・」




「ここは会社じゃない」




「・・・・はい、」




「だからーーー


俺の前を歩くな、隣に並べよ・・・・・・千麻」





射抜くような眼差しでずれる事なく私を見降ろす。


まるで命令とばかりに言葉を発した唇は弧を描く。


隣に並べと言った割にその言い分は少し上からの要求ではないだろうかと眉根を寄せれば、まるで分かっていたかのようににっこりと微笑む。



「ちなみにコレは上司の圧力でなく、」


「はぁ、」


「亭主関白です」


「・・・・亭主関白なら並ぶのではなく黙ってついてこい。が正解では?」


「・・・・そっか」



私の言葉に一瞬の思考の後に納得し頷く姿。


そんな間に閉まりかけたエレベーターに気がつき咄嗟にボタンを押して彼を見つめた。



「ご命令なら隣に並びましょう。でもそれなら私の歩調に合わせて頂けませんか?」


「うわっ、なんか千麻ちゃんの方がカッコイイ事言ってる。『俺についてこい!』みたいな?」


「いや、普通にその歩調だと遅刻しそうで」


「・・・・」



こんな会話をしている今もまだエレベーター外という現実。


あからさまに視線を腕時計に走らせ徐々に予定を上回るロスに苛立ってしまう。


その苛立ちがさすがに通じたのか苦笑いを浮かべた彼がようやく私の横をすり抜けると小さな箱の中に収まってくれた。


一体エントランスにつくまでどれだけ時間がかかるのかと不満を感じながら1を押して扉を閉めた。


と、デジャブ。


さっき同様後ろに引かれた体。


そう言えばまだ自分の手は捕まったままだったと気がついたのは自分の背中が彼の胸に当たってから。


そして軽い衝撃を受けたとほぼ同時に私の体を包み込んでくる腕と、肩に預けられた頭。


圧迫感。


ふわり軽そうなダークブラウンの髪が私の頬を掠める。


さっきより軽減した好感持てる石鹸の匂い。


だけどさっきと違い他にほろ苦い匂いも嫌悪しない程度に香る。


ああ、コレは彼の愛用の匂い。


スーツから香る香水の匂いだ。


静寂の箱の中にエレベーターの可動音だけが響いて、体には独特な浮遊感が与えられている。


特に動揺するでもなく彼の熱や体重を受け入れていれば、不意に動きを見せた頭。


そしてそれによって動いた髪が頬をくすぐる。


コレは少しくすぐったい。