いつまで続くのかと思っていた無言の見つめあいで、先に口を開いたのは彼の方。
「ま、いいよ。多分・・・・千麻は俺に会いたくなる気がするし」
「何その予言」
「予言じゃないよ。何となくの願望かな」
あんたの場合【なんとなく】なんてあやふやな事で言葉を口にしないでしょう。
そんな事を思って本心を見抜こうと見つめていると、すっと伸びてきた彼の手が私の飲みかけだったコーヒーを掴み自分の口元に持っていく。
「ちょっと、私のコーヒー」
「10円分は俺のものでしょ?」
「勝手に入れたくせに」
フンと鼻を鳴らして不満げに睨み上げると、ちらり私の背後に視線を走らせた恭司がクスリと笑い私を見つめる。
「千麻の尊敬すべき上司さまな旦那様のご帰還だよ」
げっ・・・、超まずい問題残ってた。
その言葉に後ろを振り返れば確かに遠巻きにエレベーターホールから向かってくるのは旦那である彼と雛華さん。
ああ、戻ってくるなら一報してくれればいいのに。
まるで不意打ちでも食らった感覚と、ここを出ていく際の彼の一言を今更思い出しさすがに動揺。
『俺が戻って来るまでにその匂いどうにかしておいてね』
すみません。
どうにかするどころかより強くこの身に纏ってしまいました。
確かめるように視線を下に走らせた瞬間、わずかな動きで自分から香る恭司の匂い。
ヤバい・・・。
絶対に不機嫌になる。
まるで私と彼のやり取りの内容でも知っていたかのように訳知り顔でくすくす笑う男に苛立ちが募る。
そうしている間にも距離を縮めた彼のグリーンアイがゆっくりと私を捉え。
そして露骨に眉根を寄せると怪訝な眼差しで射抜いてきた。
今すぐにでも逃げ出したくなるくらいの瞬間でも上司を迎えるのは仕事の内だ。
気まずくてもスッと立ち上がると彼に体を向ける。
その横を恭司がするりと抜けて振り返りながら微笑み歩き去る。
くっそ、問題の種ばっか撒き散らしていきやがって。
内心そんな悪態をつき舌打ちまで響かせても、そこは常識ある大人。
外面では無表情で彼を迎えると頭を下げた。
「おかえりなさいまーーー」
「臭い」
開口一番の不満。
いや、予測はしていたけれど。
下げていた頭を上げて真正面から彼を見つめれば、かなりの嫌悪抱いた表情で私を見つめてから歩み去った恭司を振り返り再度私を見つめる。



