だけども、そんな新婚ごっこにいつまでも興じる私でもなく、思い出したように腕時計を確認しさっき開けそこなった扉を開く。
朝の空気がふわりと入りこみ、それを無意識にもしっかり吸いこむと扉をしっかり開き切って手で押さえ彼を振り返る。
「どうぞ、」
「・・・なんかなぁ、秘書をお持ち帰りしたみたい。変な意味でなく秘書として使用するために」
「ああ、それはいい思考ですね。今後もそのような意識で私と生活を共にしてください」
「それってお互いに休まらなくない?」
「ご心配なく。私は全力で今まで通りに過ごしますから」
体を外に出しながら終始不満げに私に返す姿を適当に横目で捉えながら扉を閉め、ガチャリと施錠するとヒールを響かせ歩きはじめる。
そういつだって彼の先を歩き彼の手を煩わせない様に行動する。
もう5年もしてきた仕事。
私が彼の傍に立てば無意識に全て行動してしまうのだ。
それはもう、彼は上司で私が秘書と嫌でも体に刻み込まれている習慣。
そんな意識で軽く歩みを速めると1階まで下がっているらしいエレベーターのボタンを押した。
私と彼の新居。
いや、私の新居だろうか?
高層マンションの最上階眺めが良すぎるバカでかい部屋。
元々は彼1人で気ままに暮らしていた一室。
そこに有無を言わさず婚姻が為された昨日から身を置く私。
静かに浮上してくるエレベーターを点灯する数字で感じ、ただその点灯を目で追っていれば不意に自分の手に絡みついてきた感触と熱にゆっくり後ろを振り返った。
だけどもその視線が絡むわけでもなく、いつだって綺麗なグリーンアイは絡め取った私の左手をその近くに持ちあげマジマジと見つめる。
「・・・・何か?」
「いや、・・・ちょっと不安?」
「はっ?」
意味が分からない。
そんな風に怪訝な表情を浮かべれば、どうも意識は私の手にしかないらしい彼が眉根を寄せて表情を歪める。
確認するべきか。
そんな意識で口を開きかければ止まることなく浮上していたエレベーターが到着音を響かせその扉を開く。
一瞬で自分の疑問が掻き消され、すかさず中に乗り込み開ボタンを押そうとその身を動かす。
・・・筈が。
捕まったままだった左手をグイッと引かれそれを阻まれ、不満げに振り返れば今度は緑と視線を絡めた。



