彼に背中を向けたタイミング。
すぐに首に巻き付いた手に後ろに引き戻され、驚いている間も無く首筋に走る刺激。
「ーっーーーー痛ったぁ!!」
思わず声に出してしまったくらい予想外に与えられた刺激は強烈だった。
キスマークなんて可愛らしい物じゃない。
しっかりと歯を立てギュッと歯型着くほどの力の噛みつきに思わず体を捻ると突き飛ばす。
いや、予想していたのかさして突き飛ばされなかった姿に余計苛立ったけれど。
何するんだ!?と噛まれたところを押さえながら睨み上げると、まるで悪びれていない不愉快顔がぶれることなく私を見つめ降ろした。
「・・・・・一緒に来い。千麻」
「はぁ?何をおっしゃってるんですか?私を晒しものにでもしたいんですか?」
「そうだよ茜ちゃん。あんな重役の会食に千麻ちゃん連れてったら余計変な贔屓目で千麻ちゃんが扱われてると思われちゃうよ」
彼の突然の要求をはっきりと突っぱねれば、すかさず補足とばかりに常識的で理解ある一言を向けてくれる雛華さん。
ああ、後光を感じる。
そして同時に私の押さえていた手をそっと外して噛み痕を確認し、痛々しいとばかりに苦笑い。
「これ・・・痛いよ茜ちゃん・・・」
「愛のマーキング」
「じゃあ、私のコレで目の周りに青あざ出来ても【愛のマーキング】って事でいいですね、」
全く反省を見せずにフンっと横を向きながらあっさりと告げた男に、拳を握りしめると腕を持ちあげ振りかざす。
当然、宣言した攻撃をそう易々受ける筈のない彼がパシリと涼しい顔で私の拳を受け止めると深く息を吐く。
「・・・・・ま、いい。行くわ」
「さっさといってらっしゃいませ・・・」
「・・・・・戻って来る頃までにその匂い・・・何とかしておいてね」
言いながら私をスッと突き放すと背中を向けて歩き出す姿。
すかさず後を追ってヒールを響かせ始めれば、
「あっ、見送りいいから」
ついてくるな。
そんな感じに軽く振り返った冷めた眼差しで私をその場に縫い付けまた歩きはじめる。
雛華さんだけが私を気にして振り返って軽く手を振ってきて、心底この人が副社長になり替わればいいと思った程。
そして姿が見えなくなっても嫌でもその気配残るじわじわと痛む首筋。
指の腹で触れるだけで痛い。
あの馬鹿男・・・・・戻ってきたら仕返ししてやる。
そんな風に理由の分からない彼の不愉快に自分も不愉快に染まって休憩室に向かった。



