本当に小賢しい。
そこで手を引いたり不愉快露わに振り返ったら逆に負けなのだ。
そう理解しているからあえて姿勢も変えず視線もモニターに向けていれば、向こうも別に痴漢ではない。
単に悪戯にその事を指摘したかっただけで、軽く小突いた後はそれ以上の接触はしてこないのだ。
ああ、イライラする。
この匂い。
決して臭いとかきつすぎるものじゃないのに今の私には生理的に受け付けないものであるのだ。
でも悲しいかなこの男にはよく合う匂いだとも思ってしまう。
ああ、嫌だこの気配。
それでもどこか懐かしく馴染むものでもある。
その事実が余計に腹立だしくて不愉快なんだ。
でもどんな時でも仕事は私の味方だと思う。
それこそ悪戯な接触を受けた直後は意識して不快感に満ちていたのに、手鼻挫かれた集中力舞い戻ればすぐにその不快感も忘れ会議に意識が移った。
どんなに長引こうが昼にはその時間は中断する。
3か月に一回のこの合同会議は昼の会食付きで行われる。
いや、当然私や他の秘書たちは弁当支給なのだけど。
11時半にとりあえずの終止符を打った会議。
ずっと座りっぱなしで鋭い表情を持続していた重役たちが多少柔和な顔になり各々体を伸ばして立ち上がる。
視界に捉えた我が副社長様やその補佐の雛華さんもゆっくりと立ち上がったのを確認して壁から離れだす。
そして不覚にもその存在思い出し振り返って『しまった』と思った。
でも、視界に捉えたのは自分も背を向けていた壁のみで、予想した嫌味ったらしい長身の姿はすでにない。
そうか、そりゃあ彼も仕事中なのだ、私にちょっかいをかけるより優先すべきは上司の身の回りの管理。
くそっ、私も大概だけれど彼も彼で相変わらずだと再確認して不快に記憶されたあの香りに舌打ちを響かせ夫である彼の近くに歩み寄った。
「お疲れさまでした」
近づいて労いの言葉をかければ瞬時に反応し微笑んだのは癒しの緑。
雛華さんだ。
「いやいや、座ってられる俺たちはマシでしょう。千麻ちゃんなんてずっと立ちっぱなしじゃない」
「まぁ、・・・秘書の悲しい実態と言いましょうか、」
「茜ちゃん、俺達で何か考慮する?」
そう雛華さんが投げかけたことでようやくその意識がもう一人のグリーンアイに移り、そして何故?と首を傾げたくなった。



