私と同様、秘書の立場であるその他の人々は壁寄りに立ち会議の流れを把握する。
いつものように他の数名の秘書たちがすでに並ぶ壁際に寄り立つと、ここでもやはり小さく噂の的になる私の立場。
ヒソヒソと聞こえないように話されている内容はもうすでに予想出来る。
『玉の輿』やら『横やり女』やら『財産目的』が大方言葉に含まれる。
もう今更に近いそんな印象は気に留めるものでもないと、会議が始まる残りの数分手帳で予定を確認しようと視線を落としていた瞬間。
強烈で鮮明な記憶の回想。
同時に静かに響く声に視界で捉えるより早く理解。
「憶測や尾ひれのついた噂話・・・・。そんなものに踊らされているような人間に重役の秘書は務まらないと思いませんか?」
ああ、嫌味ったらしい。
何が嫌味ったらしいって、決して声を張って噂話に勤しんでいた人達に対峙して言った言葉ではないのだ。
会議の始まる瞬間。
それも考慮しての静かに控えめに吐き出された声はどちらかといえば私に投げかけ、それでも横に並ぶ下世話な噂話に勤しんでいた人間に聞こえるように非難されたのだ。
この、いつの間にか私の隣に静かに立った男に。
「ねぇ?そう思うでしょう?」
にっこりと微笑み下し同調を求める姿は確実なる嘲笑だ。
もちろんその矛先は私ではない。
溜め息をついてからまっすぐにその目を見上げ見つめれば、今度はわずかばかりの好意を交えて微笑んでくる。
その男、長身の細見、艶やかなストレートの髪質で顔立ちは綺麗だと言える。
そしておしゃれすぎずでも決してダサいわけではない眼鏡の奥は微笑んでいるのにいつも含みある鋭い物。
一見インテリで物腰穏やかな執事の様だ。
そして独特の香り。
「・・・そんな噂話に耳を傾けているあなたも同類と言えるのでは?」
切り返して、くっと気持ちの無い弧を口元に浮かべると視線を前に戻していく。
瞬時に耳に小さく響いたクスクス笑いに苛立ちが募る。
愉快。
ああ、こっちは不愉快だというのに。
見事集中をこちらに集めることもなく周りを沈黙させた男。
小さく重役の目にも耳にも止まらずに沈静化した騒ぎの中静かに始まる会議。
議題に沿って進むそれに耳を傾け隣の男の匂いに不快感。
それでも真剣でピリリとした会議の空気に持ち前の集中力が発揮され始めた瞬間。
ああ、腹が立つ。
ちょうどモニターの為に薄暗くなった空間。
誰もがその画面に集中しているタイミング。
嫌味なのか何なのかたまたま下していた左手にトンと触れてきた手。
ご丁寧に左手の薬指を軽く指先で小突いたのだ。
腹の立つ男。



