一瞬その存在に意識がすべて持っていかれてすぐに後悔。
いや、失態で手遅れだと背後の気配で理解する。
火に油だろうか?
不可抗力とはいえさっそくしてしまったミスは彼の不機嫌ポイントに加算されるのだろうか?
「・・・・・・・・・・浮気者」
ああ、加算。
しかもかなり大きく。
二けた位加算された気がする。
明らかなる不機嫌な響きを発した彼を振り返れば露骨に眉間に皺が寄り、視線が絡んだ瞬間の舌打ちが耳に痛い。
「茜ちゃん・・・、心狭い・・・」
「俺も相手がお前じゃなければもう少し余裕あるかもなぁ」
「しかも蛇みたいに執念深いね」
「お前・・・・よく俺にそんなこと言えるね」
一応・・・一応ここまでの会話を説明すれば会話の割に終始笑顔の攻防戦。
しかも2人ともどこか冗談めいた響きでその言葉を発するのに、そのオーラだけは一触即発。
ぎりぎりのところで会話をとどめている気がする。
でもそこはマイペースでつかみどころのない雛華さんが先にその緊張を崩して思い出したように声を響かせた。
「あっ、そうだ茜ちゃん、」
「なんだよ?」
あまりにケロッと態度と声音が変わった姿に、さすがに慣れているからもう驚きはしない。
そして私なんかより更に慣れている彼も特に驚かずに普通に返す。
そしてスーツのポケットから何やらゴソゴソと取り出した折りたたまれている紙のようなもの。
『あった、あった』とようやくその口の端を上げた雛華さんがにこやかに彼にそれを差し出した。
次いで持っていたペンも、
「婚姻届けの保証人になってぇ」
満面の笑み。
もちろん雛華さんのみが。
さすがに会社の部屋の入り口でその申し出を受けた私と彼は驚きに不動になる。
やはり天然。
タイミングか内容か、どちらに驚いていいのかわからない。
「えと・・・何?いや、するだろうと理解はしてたけど。・・・・結婚するの?雛華、・・・芹ちゃんと?」
「芹ちゃんじゃなかったら誰とするのさ?」
「早くね?」
「・・・交際期間0日で結婚した茜ちゃんに言われたくない」
そういって彼と私を交互に指さす姿に色々と物申したい。
あくまでも私と彼の結婚は異例中の異例で。
むしろ常識ある人間なら受けない申し出だったのだと。
・・・・あれ、つまり私が非常識ということか。



