そしてすかさず膝の上から立ち上がると、かけておいた上着に袖を通しながら腕時計をつけていく。
その間になんとかゆらりと立ち上がった彼が不満げにコーヒーを口してぼやく。
「千麻ちゃんは一筋縄でいかない」
「全ては日頃の行いのせいでは?」
「日頃?」
「さっき、私達は分かりあったとおっしゃいましたよね?」
「ああ、うん・・・」
「つまり、あなたは私に見せすぎているのですよ。良いところも悪いところも」
「・・・・・・それは、否めない」
返す言葉もない。
そんな感じにようやく押し黙った彼に満足し、こちらを見ていない間に口の端を一瞬軽くあげると鞄を持って玄関に向かった。
その後についてダラダラと歩いてくる彼をチラリと確認し、ヒールを履くとその場で待つ。
そして追いついて靴を履こうとする姿に靴べらを手渡すと彼の苦笑い。
多分、『完璧』そう言いたいのだろう。
受け取り靴をしっかり履いたのを確認すると腕時計で時間を確認し、玄関扉に手をかけ始めた。
ああ、ベストタイム。
そんな風に満足しかけたタイミング。
不意に腹部に絡んできた手の感触。
グイッと後ろに引き戻された体が背後にいた彼にぶつかる。
トンと衝撃を受け、すぐに非難するように見上げれば嫌味ではなくどこか柔らかに微笑むグリーンに見降ろされた。
「・・・・時間、」
「うん、知ってる」
知ってるだぁ?
じゃあ、何を遊んでいるのかと眉根を寄せた瞬間。
予告もなしに寄った顔。
無警戒の無防備。
だから今までの様に防げずにその感触を得てしまった。
でもやはり唇は自由。
しっかり密着した彼の唇は自分の唇の端で、それでも今までのキスで一番唇に近い位置だと瞬時に思った。
さすがに驚き不動になっていればゆっくりと離れた彼の唇が弧を描く。
「新婚夫婦のセオリーじゃない?」
「はっ?・・・なに・・・」
「いってらっしゃいのキス?」
ああ、確かにそれは新婚らしき朝の風景。
でも・・・、
立場が逆じゃあないだろうか?
いや、そもそも・・・。
「目的地が一緒なのでいってらっしゃいはどうかと?もっと言えば日中も常に一緒ですから・・・」
淡々とそんな返答をすれば、『本当だ』と納得しクスクスと笑う姿。
ああ、子供の様だ。



