と、思ったら甘かった。
声より先に扉が閉まった瞬間に背中にかかる重み。
首に巻き付く腕。
瞬間的にうんざりな顔をしてしまい、それを非難するようにカプリと耳に噛みついてくる豹男。
「何嫌そうな顔してるの?」
「嫌だからです」
「うわっ、ストレート~、俺のガラスの心臓が粉々になるじゃん」
「じゃあ、再起不能になるほど打ち砕いて差し上げましょうか?」
「ねぇ、もうここまで来たら愛情表現って理解していいよね?」
「何を馬ーんっーーー」
馬鹿な解釈を。
と続けようとして振り返れば、それを待っていたかのようにすでに口元に弧を描いていた彼に唇を重ねられた。
トンと壁に押し付けられた体。
一瞬呆気にとられた事態にされるがままキスの感触に翻弄され、意識の冷静さが舞い戻ると彼を突き放し。
ああ、ここが密閉された空間でよかった。
派手に響いた音とジンジンと痛む手の平。
頬を押さえ呆気にとられ見つめる彼に嫌悪交えた冷めた視線を返し声を響かせる。
「目が覚めましたか副社長?ここは汗水流して仕事に勤しむ日本ではトップクラスの大企業の社内なんですよ?」
「・・っ・・うんうん、すっごく嫌ってほど子供の時から知ってる。そして知ってた?君が殴ったのその大企業まとめる家系の御曹司で現副社長だって」
「ああ、すみません。あまりに猥褻な行為をしてこられたので突如精神崩壊でも侵したのかと」
「で?殴るの?」
「ほら、古いテレビも叩けば治る原理で・・」
「そんなアナログな方式かよっ」
不機嫌に食って掛かる彼をプイッと無視して数字の点灯をを追う。
あと数階で到着する。
そんなことを意識した瞬間に後ろから巻き付いてきた腕に再び捕まりそのままギュッと抱きしめられた。
「・・っ・・いい加減にーーー」
「しっ・・・少しだけ。・・・・もう少しだけ、心の余裕持たすためにもこうさせて」
今度は強引な声音でなく純粋なお願いの響き。
それを静かに聞き取ると息を吐いて前を向き直り身を預けた。
「・・・【余裕】・・ですか?」
「うん、【余裕】です」
「そんなに不安になるんですか?」
「ちょっと・・・・黙ってて・・・」
ああ、不安になるんですね。
まぁ、仕方のないことなんでしょうか?
一度経験した苦い記憶は今も鮮明で健在って事でしょうか?
どうやら不安を埋めるように私の存在を刻み込んでいるらしい彼の肩に天を仰ぐように頭を預けて手に触れた。



