ねぇ、その好きはどういう【好き】なの?
そんな陳腐で聞いても仕方ないことを私は口にしない。
聞いてときめいてその言葉に酔うほど若くも乙女でもないから。
でも、
でもね。
まっすぐに本心から言われた『好き』には私であっても、相手があなたであっても心がくすぐられるみたい。
これも熱の誤反応かしら、
ダーリン?
「・・・・ダーリンって本当に馬鹿ですね」
「知ってる・・・」
「知りませんよ?こんな風に私があなたに欲情するのはこれきりかもです」
「もうっ、何で千麻ちゃんはそう意地悪かなっ!」
勢いよく抱きしめていた体を解放し私を不満げに見つめてきた姿。
捉えたのは食べ始めた瞬間に再度お預けを食らった犬のよう。
本当に・・・・馬鹿ね。
「・・・・っ・・」
「少し・・・感動したわダーリン」
「っーーーー反則っーーーー!!!!」
反則?
ああ・・・・そっか・・・。
気が付けば自然と上がっていた口の端、そして少し困ったように眉尻を下げ。
彼から見た私は微笑んでいたんでしょうね。
目の当たりにした彼はさらにもどかしそうに不満を表し、それでもその頬は紅潮している。
可愛らしいなんてクスリと笑うと、わざとらしく顔を背けベッドから降りクローゼットに向かう姿。
ふわりと香る彼のシャツにさらに口の端を上げると歩いていた背中に言葉を投げた。
「着替えはいらないです、」
「・・・・はっ?」
「・・・・結構・・・・この匂い好き」
「・・・っ・・・・」
匂いを確かめるように自分の肩に鼻を近づけると小さく笑いそのままベッドに倒れこんだ。
目が回る。
ああ、熱って変な感覚になっていつもの自分が迷子になるわ。
じゃあ、その迷子のうちに入り込んだ可笑しな私が言ってしまおうか?
「私・・・・この夫婦関係結構好きよ。・・・・ダーリン」
ベッドに沈んだままどこか冷静でないふわふわとした感覚に言った言葉。
そして結構自分が限界だったのだと理解する急激な睡魔。
ベッドの感触と体へのぬくもりや心の安堵を得れば自然と眠りに誘われ目蓋を下していった。
ああ、残念。
私の言葉に対する彼の反応を見ておけばよかった。
それがその夜最後に思った事。
「・・・・・おやすみ、千麻ちゃん」
その声も・・・結構好き・・・・。