だってやっぱり少し迷う。
芹ちゃんに抱いていたものとはやはり感じるものが違って、守って寄り添って優しく抱きしめていたかった感情とはまるで違う。
千麻ちゃんは・・・、
対等で、俺に翻弄されなくて、衝突はするのに絶妙な行動でそれを緩和してまたいつも通りに過ごす。
守ってあげたいというよりはお互いに足りない部分を補って並んで立っているような。
でも、いるのが当たり前で、今更失うなんて出来ない存在。
『今日は何が食べたいですか?』
何でもいい。
千麻ちゃんの作るご飯は全部美味しいから・・・・。
当たり前の会話になっているこれも・・・、1年したら聞けなくなる?
当たり前になっている生活が・・・、存在が・・・いなくなるなんて・・・嫌だ。
恋かは知らないけど・・・。
無くては焦るほど俺に必要な存在。
そうなると分かっていたからあの苦痛な瞬間に助けを求めて縋った。
『俺と結婚して・・・』
あの瞬間・・・・。
俺が頼って縋りついて寄りかかれるのは彼女だけだと思ったんだ。
恋かはわからない。
わからないよ。
でも・・・・、
俺、千麻ちゃんが好きだ。
「茜?」
「ん?ああ、ごめん・・・、今更な自問自答してた」
「・・・・そろそろ時間だし上行くか」
腕時計を確認した父がさっきの質問に追及はせず、それでもどこか含みある感じに笑うのに気が付かないふりをした。
そして促されエレベーターに向かって歩き始めるとすぐに知った声に呼び止められる。
「副社長っ。ああ、よかった・・・」
響いた声に立ち止り振り返ればさっきまで俺の体を車で運んでくれた堺の姿。
父さんより少し年上のその姿はいつだって穏やかで運転もすこぶる上手い。
そんな彼が珍しく慌てた足取りで俺に駆け寄ってくるとその手に持っていた物を差し出して安堵したように微笑んだ。
「申し訳ありません。私の不注意でお渡しするのを忘れておりました」
「はっ?何これ・・・・」
「はい、多分副社長はこのホテルに送り届けたら私を帰宅させるだろうからと、『万が一の為に』と奥様が、」
絶句。
確かに今言われたようにこんな何時間かかるかわからない会食の時間につき合わすのもなんだと堺には帰宅を許していた。
そしてそれを見事読んでいた『奥様』の小さな気配り。
堺がにこやかに差し出すそれを受け取って、すぐに眉根を寄せると俯いた。



