それが彼の為だとも思う。
本当の恋愛感情をようやく学んだ彼なのに、ただの信頼の心地よさにそれを忘れて誤魔化して私といる理由はない。
穏やかで他愛なくそれなりに楽しくてもそれは恋ではないんだから。
まぁ、あの生活は結構楽しいのですけどね。
ああ、余計な思考を。
今はただ目の前の今日の最後の仕事をなんとかまっとうしなければ。
ようやく目の前の仕事に意識が戻るも徐々に蝕んでくる熱と倦怠感。
でもここでふらつこうものならまた彼の心配を煽るだけだと気丈に意識して歩く。
ヒールの音がいつもよりやけに大きく聞こえるのは気のせい?
私はいつも通りに歩けているだろうか?
いつもって・・・・・どうだっけ?
意識すれば難しい無意識の行動。
疑問尽きなくそれでも歩いていけばロビーを抜けて玄関にたどり着く。
入口にはすでに堺さんが車とロータリーの屋根の隙間から落ちる雨を遮るように傘を差して待っていて、私たちの姿を確認すると扉を開いた。
ここに来るまで自問自答の嵐。
でもようやく解放されると思った瞬間に今さら気が付いた。
そして確かめるように振り返るとそれとは逆に私をすり抜け車に乗り込む姿。
結局視線をゆっくり車に戻すと不機嫌な無表情の横顔を捉えそれを見つめた。
彼の声を聞いたのは部屋が最後。
ここに来るまで終始無言。
いや、無言であってほしい。
ああして自問自答の意識の不在。
その間にもし話しかけられていても気づいたいなかったのかもしれない。
それを確認するように見つめてもこちらに移らないグリーンアイはまだ不機嫌の意思表示。
仕方ないとそれを黙認すると運転席に乗り込もうと歩き始めていた堺さんを捕まえ手に持っていたそれを手渡した。
もしかしたら不必要かもしれない。
それでも万が一の為に堺さんにそれを預けるとゆっくり身を引いた。
バタリと扉が閉まりゆっくり車が動き出すと静かに頭を下げる。
下げる直前、あのグリーンアイと視線が絡んだのは気のせいだろうか?
もう確かめる術もなく遠ざかっていく車を見つめ、敷地外に走り去るのを確認すると深く息を吐いて脱力した。
「・・・っ・・・・キツイ・・・」
ピンと張りつめていた糸が切れれば今にも座り込みたくなる倦怠感。
そして鼻につく雨の匂いと音にうんざりして、空を見上げた瞬間に鳴り響く雷鳴。
「・・・・・・厄日」
ああ、とにかく家に帰ろう。
適当に簡易栄養食でも買って、薬を飲んで寝てしまおう。
そう決意するとヨロヨロと社内に戻りデスクの片づけを済ませると鞄を持って退社する。



