「それより、お願いがあるんだけど……」
 
これから仕事なのか、上品なパンツスーツに身を固めたママは改まった口調で言った。
 
「ん? なに?」
 
言おうとしてたスーツへの褒め言葉を中断し、訊き返す。
 
 
「実はね、店のキッチンスタッフが一人、急に辞めることになったの。アルバイトを急募はしてるんだけど、決まるまで店を閉めるわけにもいかないから、比奈に手伝って欲しいのよ」
 
「えっ。ホント!? うん、もちろん手伝うよ!」
 
 
ママがあたしに店の手伝いを頼むなんて余程のことだ。
 
これまでも何回か手伝ったことはあるけど、学業に響くからって、基本的にはあまり手伝わせてくれないんだ。
 
 
「悪いわね、比奈。今、丁度店の人出が足らなくてね……」
 
「気にしないで。ちゃんと学校にも行くから」
 
「よろしく頼むわね」
 
 
コクンと頷くとママはすまなさそうな顔のまま部屋を出て行った。
 
あたしは殴り書きだらけのノートとシャーペンを再び手に取り、ベッドを降りた。