「ひ、比奈さん。このズボン、股上が……。おヘソが見えちゃうよこれっ」
 
 
 
試着室から聞こえる恥ずかしそうな小宮の声。
 
「イマドキ、ローライズは常識だよ! 男ならおヘソ見えたくらいでガタガタ言わない!」
 
ピシャリと返すとカーテンの向こうは静かになった。
 
しばらく待ってると、シャッ、とカーテンが開く。
 
 
大変身を遂げた小宮が現れた。
 
 
 
  
「わぁ~っ! ホラ、似合ってるじゃん!」
 
さっきまでとは段違いにカッコよくなった小宮に大満足!
 
シンプルながらもスラッとスマートな男を演出する黒はあたしの大好きな色。
 
思った通り小宮によく似合う。
 
広めの襟ぐりから覗く鎖骨や、細く引き締まった腰のラインも思わずグッとくるセクシーさ。
 
あたしがいっぱい褒めまくると、小宮は恥ずかしそうに顔を俯けた。
 
そういう仕草が妙に可愛らしい。
 
 
 
「あとは髪型とそのメガネなんだけど……」
 
「あのっ。僕、あんまりお金持ってきてないんだけど。この服買ったら、財布空っぽかも……」
 
「ああ、そうだよね~。とりあえず他も回って色々着てみようよ! どんだけ小宮がカッコ良くなるか、あたしも楽しみだよ~」
 
 
 
言いながら、何気なく小宮の胸を指先でつつ~っと撫でた。
 
 
あんまりセクシーに変身したから触りたくなっちゃったんだ。
 
 
 
「ひゃっ!」
 
 
 
途端、小宮は真っ赤になって飛びのいた。
 
勢いよすぎて背後の鏡にぶつかるくらいの素早さで。
 
 
 
 
 
  
……………………。
 
 
 
なんてゆーか。小宮って、かなりウブい?
 
  
 
これから脱・チェリーしようって男がこんな調子で大丈夫なんだろうか。
 
 
「店で暴れないでください」と注意してくる店員さんに慌てて謝る小宮。
 
せっかくのスマートな衣装も形無し。
 
 
 
一抹の不安を抱えながら、そのショップを後にした。