「あー……あったあった、そんなコト。思い出したよー」
 
 
  
あたしはその時の記憶を思い返しながら言った。
  
確かに去年の秋、荒れた花壇を麻美と一緒に直したことがあった。
 
せっかくの蕾が倒れてて、凄く哀しかったんだ。
 
あたしみたいな素人が直せるわけがないとは思ったけど、じっとしてらんなくて。でもやっぱり上手く茎を立たせらんなくて。
 
そこにやって来た花壇係がすごく頼もしく見えたっけ。
 
無口だけど真剣な表情で、手際よく植えなおしていった彼――あれが小宮だったんだ。
 
 
なんで忘れてたんだろ。
 
しょんぼり首を落として言った。
 
「ごめんね、すぐに思い出せなくて」
 
「ううん、比奈さんにとっては、花壇を直したことなんて大したことじゃなかったんだよね。僕は比奈さんのそういうところが凄いと思う」
 
「凄いことなの? それって」
 
「少なくとも僕にはね」
  
にこっと笑って言う小宮。変なヤツ。
 
あんなの、たまたま通りがかってたまたま直しただけなのに。
 
でもそう言われるとちょっぴり偉いことしたような気になってきたかも。
 
そっか。小宮は喜んでくれたんだ。
 
花壇直して良かったな……。