櫻井が去ってから大して時間が経っていないはずなのに、廊下にはあいつの姿がなかった。歩くの速すぎだろ…。

あちこちから話し声が聞こえる。そっか、もうそろそろで就寝の時間だものね。テンション上がるのも無理もないか。

目の前には203号室のドアがある。これを開けたらまた偽らなきゃダメなんだよね…。はぁ、やだな…。

ドアノブに手をかけようとしたそのとき、あいつの声がした。そう、私の彼氏さんの声が。

水川「あれ、神村?」

…お前なんでいるんだよ。男子部屋は階段の向こうだろ?怖いんですけど。

『水川君。どうしたの?ここ女子エリアだよ?』

水川「暇だからさ。ぶらぶらしてる」

こいつ同じ部屋の奴らからはぶられてんのかな。可哀想に。

『そうなんだ(ニコッ』

ぶっちゃけどうでもいい。お前が暇だろうがなんだろうが私には関係のないことだしね。さっさと散れ。

水川「うん。にしても今帰り?遅かったね」

痛いところ突くなお前。てきとうに誤魔化せばいっか。

『うん。忘れ物しちゃってさ、それ取りに行ってた』

水川「そうなんだ。あ、俺もう行くね」

さっきも似たような去り方してね?もう行くねって何ぞや。[もう]って何。牛かよ。

『了解。おやすみ』

水川「おやすみ(ニコッ」

はよ帰れ。