『遼矢さん!』

「聞こえてる。」

『もしかして、体調が悪いんですか?』

「いや、大丈夫だ。」

ぼーっとしてた。
光希の事を考えていた。

今日はいつになく化粧して女らしい服を着て。

いつもはジャージやジーパン、上はTシャツやパーカーなのに。

自分の腹の底から黒い絡まりが上がってくる。

それを押さえるのに必死で歯を食い縛って、手を思いっきり握った。

『本当に大丈夫っすか?』

「ああ。大きな事件もなかったし、俺は帰る。」

『お疲れさまでした。』

裏口から出ると、俺の単車が止まっている。

その単車に跨がってエンジンをかけた。
この単車は最高だ。
からだの奥底に響く低温が俺の心に染みる。


「3時か……。」

時計を見るが、今日はやけに時間がたつのが遅い。
やることもなく、暇だ。

そうだ、玄武にでも行くか。

そう思って、俺は町の北へと単車を走らせた。