井上主任は無表情のまま、小さく右手を上げた。
「千晶も届けてくれて、ありがと!」
私がお礼を言うと、千晶は肩を竦めて笑った。
私と塚本さんが、椅子に腰を下ろそうと動くと、千晶も動いた。私と塚本さんの間の背後に立つ。
「そういえばね、塚本さん」
千晶に声をかけられ、塚本さんは斜め後ろを振り仰ぐ。私は、悪い予感しかしなくてとっさに千晶の名前を呼んだ。
「千晶?」
「沙映、今日私の家に泊まる予定だったんです。でも、私にデートの予定が入っちゃって。沙映の事、お願いできたらありがたいです!」
きれいな笑顔を浮かべながら、千晶が爆弾を投下した。
「千晶っ!」
千晶は私の事を無視して、塚本さんだけを見ている。
「あっ、うん……任せて?」
視線をウロウロとさまよわせた後、眉尻を下げた塚本さんが、千晶を見返しながら言った。
「よかった。塚本さん、ありがとう!」
最後にチラと私を見て、千晶はコーヒーコーナーに戻って行った。
「「……」」
私と塚本さんの間に、何とも言えない微妙な空気が流れる。
千晶っ!!どうするのよ!?この空気!!
心の中で、千晶に文句を言う。



