顔を上げると、塚本さんと目があった。車の中の距離って、意外に近い……そんな、今さらな事を考えていた。

お互いに目を逸らさず、視線が絡んだ。トクンと、心臓が静かに鳴った。

塚本さんの顔がゆっくりと近付いてきて、私はそっと目を閉じた。

唇に、温かで柔らかなものが触れた──

わずかな間だったのかもしれない。二人の時間だけが止まってしまったように、身動ぎ一つせずに唇を重ねていた。

重ねた唇から、塚本さんの体温が移されるような、私の体温を移すような、そんな感覚をもった。

「♪~」

静かな車内で、短く電子音が鳴った。

それが合図だったように、私と塚本さんはパッ!と離れた。

我に返ると、急に恥ずかしくなってきた。あの告白をして以来の、キスだった。

一気に全身が火照り、塚本さんから目を逸らした。

「おっ、お疲れ様でした!では、失礼します!」

慌てすぎて、職場での挨拶のようになってしまった。

「あっ、うん!お疲れ!」

助手席のドアを開け、俯いたまま車を降りる。

塚本さんが、どんな顔をしていたのかは知らない。でも、私の変な挨拶に同じ調子で返したという事は……