キスの意味

洗面台で口をゆすぎ、ペーパータオルで口元を拭いた。ようやく、気持ちの悪さが落ち着き、少し楽になったような気がした。

そうなると、今度は突然、眠気を感じるようになった。洗面台から2歩ほど歩いた所で、崩れるように座り込んでしまう。

「おっと!」

「つかもん、ねむいれす」

この時、眠いながらも、気持ちの悪さが落ち着いたせいか、曖昧だった意識が、少しだけはっきりする。

塚本さんはしゃがみ、片膝の上に、私を横向きで座らせてくれた。背中を塚本さんの腕に支えられ、妙な安心感を感じて、うっすらと開いていた瞳を、完全に閉じてしまった。

「顔色が、少しよくなったかな・・・水野君、少しは楽になった?」

「ふぁい」

「眠い?」

「ふぁい」

「困ったな。ここじゃ、ゆっくり寝られないよ」

塚本さんの低く優しい声が耳に届く。ダメですよ、そんな優しい声で言われても。子守唄にしか、聞こえません。

そう思いながらも、重く感じる瞼を、ゆっくりと開く。少し困ったように、穏やかに微笑む塚本さんの顔が、すぐそこにあった。