尚子さんの顔を思い浮かべながら考えた後、ある決心を固め、私は藤田さんの瞳を、真っ直ぐに見つめて言った。

藤田さんは、軽く眉間にシワを寄せ、訝しげに私を見た。

「尚子さんが入社して、経理に配属された時、5才年上の男の先輩がいたそうで・・・」

視線を動かし、当時の事を思い出そうとする藤田さん。

「うん、いたな。眼鏡をかけた、まじめそうなヤツだった」

私は、小さく頷いて続けた。

「すごく丁寧に、わかりやすく教えてもらったそうです。まじめなだけに見えたけど、普通に冗談も言うし、好きなテレビとか俳優さんの話しなんかもしたそうです」

「続けて」とでも言うように、ゆっくり瞬きをした藤田さん。

「自分の指導係りが、その先輩でよかった!て、思ったそうです。信頼もできるし、まるで・・・」

藤田さんが、私の言葉を息を潜めて待つ。

「『お兄ちゃん』みたいだって」

藤田さんが、小さく息を吐いた。藤田さん、何の心配してたの?やっぱり、尚子さんの事、大好きでしょ!?

「尚子さん、2才年上のお兄さんがいるけど、会社の先輩の方が頼りになるなって・・・入社して、3ヶ月が過ぎた頃、会議室で、2人で会議の資料を作っていたそうです」