キスの意味

隣に藤田さんが座ったのも気付かず、声をかけられたのに、すぐに反応できなかった。

「・・・えっ!?あっ、はい!」

藤田さんに肩を叩かれ、ようやく我に返る。

「おまえ試合中に、何ボーッとしてんの!?」

「すみません」

慌ててシャープペンを握り直し、スコアブックに視線を落とす。

そんな私の様子を見て、藤田さんが大きな溜め息を吐いた。

「そんなんで、おまえがスコアブックをつけてる意味ってあるわけ?」

私は、思わず手が止まる。

藤田さんに言われなくっても、それは私が一番思っている事だ。

マネージャーの仕事は、尚子さんがいれば大丈夫。私なんて、おまけみたいなもので。

野球中年達と一緒にいるのは、意外と楽しいけど、ほんとにいてもいいのかなぁと、ネガティブ思考の私は、やっぱり不安になってしまう。

まぁ、それをごまかすように「鬼ごっこしよう」とか、言っていたんだけど。

そんなある時、高野主任に真新しいスコアブックを渡された。

「これ、沙映ちゃんの仕事ね!」