キスの意味

だけど、今日は違った。後攻だったうちの3回の攻撃中、左隣から藤田さんがスコアブックを覗く。

「ちん、これでスコアブックをつけているつもりか?」

「・・・はい・・・」

藤田さんも倉本さんと一緒で、ずっと野球を続けている人だと聞いた。

高校も野球部で、キャプテンだったって。

きっとスコアブックの知識もあるのだろう。

野球のルールを知っていても、スコアブックがわかるのとは違う。

野球経験者ではない塚本さんが、私のつけたグダグダスコアブックを見て

「何が書いてあるのか、さっぱりわからん。水野君、すげえなぁ」

と、珍しく尊敬の眼差しを向けられた。

「これじゃあ、後から見ても試合の流れが何もわからない。だいたい・・・」

「藤田!」

まだまだ言いたい事がある藤田さんを、真中さんが止める。

「沙映ちゃんは、一生懸命つけてるから」

「一生懸命って・・・真中さんがつければ、きちんとしたものがつけれるでしょう?なんでこんな・・・」

「俺は試合に出ずに、スコアブックだけつけとけってか?」

真中さんが、わざとらしく肩を竦めた。