キスの意味

一瞬、白石さんと目があったが、すぐに俯く。

「はい、それでいいです」

「ありがとう」

白石さんとあまり話したくなくて、私は短く答えた。

いきなり白石さんに声をかけられた動揺から、私は自分の役目をすっかり忘れてしまっていた。

その後、尚子さんにもお弁当の事を訊かれたが、白石さんと話した事だと勘違いし、「大丈夫です」なんて、ちっとも大丈夫じゃないのに答えていた。

午前10時30分過ぎから『多目的広場』で、うちのチームの試合が始まった。

名前の通り多目的に使用できるように造られているので、野球場程の設備はない。

学校のグラウンドのような造りだ。

選手達の控え場所も、広場を囲むようにあるフェンスの1塁側、3塁側それぞれのすぐ前に、ベンチが6個並べられているだけだ。

当然、観客席もない。

待ち時間の間、結局私は、芝生広場のテントで、そこにいたメンバーと雑談をして過ごした。

はっきり言って、何を話したのかよく覚えていない。

なんとなく相槌を打っていればいいという空気が、今の私にはありがたかった。