宮前さんだけが、時々探るような視線を送ってきていたが、私は気付かないふりをした。

私と塚本さんのやり取りは、時々、兄妹ゲンカのように見えるらしい。

異動して2週間弱だが、周りから、よくそう言われた。

私にしてみれば、『同級生』か『幼馴染み』て感じなんだけど、5才も離れていれば、そう言われるのが普通だろう。

そんな事で、段々警戒心を弱めていった私は、金曜日のこの時、すっかり忘れていたのだ。

「ニヤッ」と、意地悪そうに笑う塚本さんの事を・・・!


塚本さんの大きな右手が、私の肩辺りに伸びてくる。

ゴミを取ってくれるのかな・・・なんて見ていたら、グッ!と押さえるように右肩を掴まれる。

「っっ!!」

身動きができない私は、塚本さんを見上げる。

塚本さんの顔が、私の耳元に近付いてくる。

「迷子にならないように。また明日」

また、あの甘く熱い濡れた声で囁かれた。

右肩に置かれた塚本さんの大きな掌から、全身に熱が広がる。

いつもは、微かにしか感じない塚本さんの香りに、酔わされる。