この人とまだ一緒にいたい。
話をしたい。
彼の言葉に甘えたい。
だけど、それはできない。
「寄らないといけないところがあるの。ありがとう」
わたしも鞄をもってベンチから立ち上がった。
彼みたいにあたたかい笑顔で言えたかな。
優しい瞳を向けていたかな。
「じゃあ……気を付けて」
「あなたも気を付けて」
それならせめて、と公園の出口まで歩いた。
彼は片手をあげてさようならをする。
わたしも片手を振ってさようならをした。
わたしたちは反対方向に歩き出す。
彼の表情は暗くてよく見えなかった。
満月は雲にすっぽり隠れていた。
彼は結局、缶を開けることはなかった。
次の日、またわたしは公園に足を運んでいた。
その次の日も、またその次の日も。
でも、彼に会うことは出来なかった。
