「梨華、少しこっちに来てくれないか?」

父親の浩輔(こうすけ)が梨華を呼ぶ。

(なにかしたのかな…)

梨華はそう思いながら階段を降りる足を速める。

「なに…?」

怯えながら言う梨華。

「最近…なにかないか?」

「え…?」

父から初めて優しい言葉を聞く。

「別に…何もないよ…」

梨華はそう言う。

「そうか…。いや、最近いじめが流行っているそうだから…

心配で…」

浩輔は顔を赤めて言った。

「ううん。大丈夫。ありがとう…」

普通の年頃の子ならこんな風に心配する父親を気持ち悪いと思うが

梨華は違った。

そんなことまで嬉しいと感じる。

(お父さんが初めて私を心配してくれた!)

梨華は嬉しくてすぐ二階に上がって妹の梨湖(りこ)の元に行った。

〝コンコン〝

「梨湖?私、梨華だよ。」

そう妹の梨湖の部屋の扉を叩いても返事は返ってこない。

「入るよ…?」

梨華はそういい扉の取っ手を回した。

〝ガチャッ…〝

扉には鍵が掛かっていた。

(いつ鍵をつけたんだろう…?)

「梨湖?開けて?私、お姉ちゃんだよ?」

梨華は扉の向こうにいる梨湖に語りかける。

すると扉の隙間から一枚の紙が落ちてきた。

『ありは十匹。私たちは?』

梨華は自分の部屋からシャーペンを持ってきて紙に書き始める。

『私たちは…孤独5109』

そう書き紙を扉の隙間に落とした。

しばらくして扉が開いた。

「…なに…?」

そこには目が死んでいる妹がいた。

「梨湖…。ご飯ちゃんと食べてる…?」

梨華はそう聞く。

「どうでもいいでしょ…用はそれだけ…?」

梨湖は冷たく言い放つ。

「あ、違うの!あのね。お父さんが心配してくれたんだ。」

梨華は嬉しそうに話す。

「お姉ちゃんって…馬鹿だね。」

「え?」

「あの人が心配なんてするはずないでしょ…。

私たちに何をしたか…忘れたの?お姉ちゃん怯えてるじゃん。

心配なんて…心配なんてするはず無いでしょ。」

そう梨湖はいい扉を閉めた。