「サンキュ」


 いつのまにか空になったグラスにコーラを注ぐ。


「やっぱシンヤのメシは最高だな」


 幸せそうに味噌汁を啜るアルゼフに、僕は変わらぬ笑顔で言った。


「その味噌汁を作ったのはシズルくんだけどね」

「ぶは……っ、げほっ……うぁ、マジかよ」

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。彼の料理は絶品だって、アルゼフも言ってるでしょ」

「そうだけどさー……」


 それ以上文句を言わないのは、素直にその料理の腕を認めたからだろうか。


「まぁ、うまけりゃ何でもいっか」


 その台詞をシズルくんが聞いたら怒るよ……。

 にっこりと、まるで子供みたいな表情で笑う彼につい本音が出てしまった。


「アルゼフは大きな子供みたいだよね」

「えー? ガキの方がいいじゃん」


 反論されるとばかり思っていた。


「コドモのココロは、オトナになっても大事だろ」


 言ってまた笑うその顔は、僕にはもう浮かべることの出来ない純粋さを含んでいる。

 今だから笑顔で毎日を送っているけど、何年か前、僕が祖父を通じて彼と知り合った頃は、大分苦労していたみたいだ。

 外国から単身でやってきて、一人で頑張って……。

 彼自身、余り昔のことは喋らない。

 誰にだって、出来れば思い出したくない過去ってものがあるんだ。

 今が楽しければ、昔のそれは課程でしかない。

 過去があって、今がある。

 例え後悔がそこにあっても、今に繋がるものが確実に存在していて、今が満足できるならそれでいいと僕は思うんだ。

 僕はアルゼフに出会えて、良かったと思っている。


fin

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