「ヒサギくん」


 頬杖を突いてぼんやりとしている彼に声を掛ける。


「やっぱり、何も食べないのは良くないよ」


 いらない、と同じ答えが返ってくるんだろうなって思っていたら。


「……シンヤさんがそういうなら、何か食おうかな……」


 意外な反応だ。

 そういえば、ハルキくんやシズルくんが云っても聞かない時に、僕が言うとあっさり返事したりするよな……。


「今用意するから、ちょっと待っててね」


 言い残してキッチンへ向かうと、背後から騒がしい声が聞こえてきた。


「ヒサギちゃん! どうしてシンヤさんの云うことにはすぐ返事するんだよ!?」

「煩ぇな、お前らの云うことなんざ一々聞いてられっか」

「酷いわぁ。アタシの優しさが分かってないのね」

「……誰の所為で調子悪いと思ってんだ」

「あら、アタシの所為だとでも云うの? そうねぇ……昨夜の貴方、激しかったものね」

「ちょっ……!? シズ、ヒサギちゃんと……ッ!? 嘘でしょッ!?」

「アタシのカラダを見てサカらない男なんて居ないわよ」

「へぇー、シズついに念願叶ったんだ? おめでとー」

「お前ら! 勝手なこと云ってんじゃねぇッ!!」


 一際大きな怒鳴り声と共に、バン、とけたたましい音が聞こえてきた。

 きっと、ヒサギくんがキレてカウンターを叩いたんだろう。

 こんなこともいつもの事だけれど……店の備品だけは壊したりしないで欲しい。

 数週間前に、怒ったヒサギくんが椅子を蹴り飛ばして壊したばかりなんだから……。



 今みたいにドキドキしたり。

 まったりと時間を過ごしたり。

 僕の生活は、この店と彼らを中心に動いている。

 それだれは、確かだ。


FIN