「ヒサギの仕事はまだ終わらないのかしら」
頬杖を突いて溜息混じり。
まるで、恋する乙女の様な表情を浮かべて、シズルくんが呟く。
「シズはヒサギちゃん贔屓だもんなー」
云ってアルゼフも視線を窓の外に向けた。
「偶にはその優しさを俺にも分けてよ」
「嫌よ、アルになんて勿体ないわ」
他愛もない会話をしつつも二人して窓の外を見詰める様というのは、何とも不思議な光景に思える。
「あ、消えた」
アルゼフの声につられて僕まで外に目をやれば、より一層不可思議度が上がる訳で……。
そうだ。忘れるところだった。
二人はお腹を空かせてやってくるだろうから、夜食の準備をしないとね。
思い直した僕は、厨房へと戻る。
程なくして、扉の開く音が聞こえてきた。
そして、一気に店内が騒がしくなる。