「さあ、着替えようか」

 あまりにも近くに聞こえた声に、びくっと身を震わせた。
 反射的に目を開けたなら、男がベッドに腰掛けて私を見下ろしている。私のシャツのボタンに、その手が伸びた。

 ん!?

「ちょ、ちょっと待って!」

「恥ずかしがらなくてもいいよ。ちゃんと着せてあげるから」


 男の意図に気付いて、私は真っ青になった。

 冗談じゃない!


「自分でできます……!これ、外してよ!」

 パニックになる私なんて構わずに、男はボタンを外していく。

「やだってば!ちょっと、こら!変態!痴漢!ストーカー!」


 本当の事を言ったところで、相手のダメージにはならないらしい。
 身をよじっても、その手は止まらずに。

 全部ボタンを外したところで、彼は不意に歪んだ微笑みを向けた。


「ああ、綺麗だね」

「ーーッ……!」


 悲鳴は、喉の奥で消えた。
 腕を拘束されたままじゃ、やっぱり着替えなんてできるはずも無く、彼は私のシャツをハサミで切り落としていく。

 わ、私のお気に入りブランドの5980円のシャツ!せめて2980円のなら、諦められたのに!

 どこか呑気な文句は、必死で恐怖を紛らわせようとした私なりの努力。けれどその甲斐も無く、食いしばった歯がガチガチ震え始める。
 時折わざとなのか、肌に触れる指に吐き気を感じて。

 ひたすら“スイッチ”が入らないことを願った。