「雪姫が誘拐された」

『はぁ!?ーーそれ早く言いなよ』

 水瀬は一瞬で声音を真剣なものに変えた。
 舌打ちと共に本題を告げれば、あっさりと了承してくれる。さすがは冴木の親友。

 水瀬はあくまでも軽い口調で、けれど迅速に俺の話を通してくれた。


『大学の同期に仁科ってのがいて、警視庁で働いてるから。彼からデータ送らせる』

「ああ、助かる」


『ーー城ノ内さん、何か手伝えますか』

 電話の向こうは冴木の声に変わって、いつの間にか携帯を強く強く握りしめていた俺は、その言葉に力を緩めた。
 突然訳の分からない要求をして無礼千万、はた迷惑な奴だと自覚はある。

 けれど、こうやって心配してくれる友人が居る。

 以前の俺なら、必要ないと切り捨てていたもの。
 雪姫と出会ってからは、失うことに怖れを抱く程度には大事だと思えるようになった。


「ーーああ多分、頼むかもしれない」


 どうするんだよ、雪姫。
 お前は俺をこんなに変えて。
 責任とって、一生隣に居させてやる。


 ーーだから頼む。

 

 無事で居てくれ。