「……ナナミ、放せ」


出来る限り穏やかに言う。

俺が見つけ出して育てているアイドルだ。
可愛くないわけじゃない。

けれど、雪姫に対する気持ちとは比べようもない。
全く違うもの。

だから俺にはナナミを抱きしめ返すことは出来ないし、したくない。
けれどいつものように、冷たく拒絶するにはナナミは脆すぎる。
クソ、遠回しになんて、俺のキャラじゃねぇ。
だいたい来る者拒まずだった俺が、丁寧な断り方なんか知っているわけが無い。

ーー断り文句が必要になったのは、雪姫を手に入れてからだ。
あの女はどこまでも、俺を振り回して、変えて、どうしようもなく焦がれさせる。


「離れろ」


遠回しが得意技の朔とか真野はこういう時どーしてるんだ、と一瞬考え事をしたのが良くなかった。

油断した俺に、ナナミがしがみつき、その唇を寄せーー。


「……そばにいて、ください。今夜だけでいいから」


間近で見た彼女の目は、深い深い闇色に染まっていた。