未だに残る、その記憶。



***



『オーリ、メッセージを聞いたら連絡を下さい。どうせ雪姫様のところでしょうが、SPくらいつけて下さいね』


携帯の留守電に残る秘書の声。
着信とメールも彼で埋め尽くされていて、なんだか嫌な気分になる。
ストーカーか、と言いたいが、彼はそれで給料を得ているーー(しかも結構な金額を)のだから仕方ない。

スクロールさせていく履歴に、その中で一つだけ、特別な名前を見つけて。
現金にも自分の顔が穏やかになったのがわかった。
秘書の用件は全て後回しで、彼女に電話をかける。


『桜里?』


その声に、一瞬息が止まった。


電話越しに聴く愛おしい娘の声は、彼女の母親のーーかつての妻の声にそっくりで。

「美雪……」

呟いてしまった名前に、電話の向こうで小さく漏らされた息。
呆れているのでも無く、哀れんでいるのでも無く、同じ痛みを知っている、そんなため息。


『もうすぐだね。……来る?』


何を、どこに、いつ?
そんなことは聞くまでも無い。


「もちろん。……美雪の命日ですからね」


電話の向こうで、雪姫が微笑んでいるのを感じた。



ーー白鳥桜里、それが、僕の名前。


ーー白鷺桜里、それが、俺の捨てた名前。