彼は私の頭を撫でた。子供の頃のように。


「あの頃のお前が大切で、今のお前に執着した。あのストーカーと変わらないな、俺は」


 私はそんなことない、と言った。
 だって、あの瞬間の要は、確かに笑ってくれた。


「幸せ、なんだよな?雪姫」


 ああ、ただそれを確かめたかったのね。


 要の問いに、私は後ろを振り返った。
 ナナミちゃんのお兄さんとの口論が終わったのか、一人腕組みして、こちらを見ていた皇と目が合う。

「うん、すっごく」


 自然に口の端に登った笑みに、要が目を見開いて。

「……て、格好つけようとしたけど。やっぱ、無理。諦めきれない」


 は?

 耳に入った要の言葉に、キョトンと彼を見上げた瞬間ーー。


 チュ、と音を立てて、私の唇に触れた、かすかな熱。


「そのうち絶対、城ノ内さんから奪うから」


 くしゃっと笑って。そんな宣戦布告をして。
 要は颯爽と、去っていったーー。


「あいつ殺す、潰す、埋める」

 気がつくとすぐ隣で、低い低い声。

「こ、皇~?」

 こ、怖くて彼が見られない。


「もしもし白鳥、もいっかい銃貸せ。ああ?法律がなんだ今更そんなもん。てめえの若作りの方がよっぽど法に抵触するってんだよ、この野郎」

 携帯を素早く取り出して、不穏な依頼なんだか喧嘩なんだかをおっぱじめた旦那様は、その片手でぎゅうっと私の手を握った。

 あら。

 それにちょっと照れてしまった私は、完全に油断していて。


「たっぷりお仕置きだな、雪姫」


 その台詞が耳から脳に届くまで、しばらくフリーズしてしまっていた。