「Dear 奏&麗。…………これが俺たちからの、一足早いクリスマスプレゼントだ。覚えてるか、奏。俺は言ってただろ、麗に『大きな黒い時計』をプレゼントするって」
「ええっ!」
 奏がそこまで読んだとき、思わず驚きの声をあげてしまう私。
「どうかした?」
「だって、『大きな黒い時計をクリスマスプレゼントに』って、瑠璃も言ってたんだもん。奏へのプレゼントね」
「え?! 偶然、同じものになったのか!」
 瑠璃から奏へのプレゼントと、鉄平君から私へのプレゼントが同じって……そんな偶然、あり得るのかな。
 そもそも、「今日4時半まで用事がある」というのもそうだし、あの二人には偶然の一致が多すぎる気がする。
「ああ、途中だったよね。遮ってごめんね」
 私が言うと、奏は「気にするなって」と言い、再び読むのを再開してくれた。

「俺は言ってただろ、麗に『大きな黒い時計』をプレゼントするって。そこで、この店の名前を思い出してくれ。『グラン・オルロジェ』……大きな時計。そして、この店って、外観が概(おおむ)ね黒だろ。まぁ、そういうことだ。麗と二人で、イブのディナーを楽しんでくれ。支払いは全部済ませてある。さすがに、あの金額分の料理を、二人だけで食べきるのは不可能だろうから、遠慮は要らない。そして、奏……瑠璃から全て聞いてあるからな。今夜こそ……分かってるだろうな? ああ、そうそう、それから。麗には言ってなかったから、伝えておいてくれ。ここのお店、俺の親父が経営してるってことをね。それじゃ、ごゆっくり。From 鹿里鉄平。かっこ……ここから後は瑠璃が書く……かっこ閉じる。……ね? 麗も覚えてるでしょ、大きな黒い時計。ちゃんと奏君にプレゼントしたのだ! こういう形でね。じゃあ、麗と奏君、二人っきりのイブを思う存分楽しんでね。From 渋宮瑠璃」
 手紙はそこまでだったようで、奏が言葉を切る。
 そしてつぶやいた。
「……なんだこれ」

 まさに、奏の言うとおりだ。
 奏と私が二人で食事できるように、鉄平君と瑠璃が気を遣ってくれたってこと?
 でも、それだと……鉄平君って、私の奏への想いを知ってるってことになるんじゃ?
 そして、手紙の中で、鉄平君が奏に言っている内容が、私には一部意味不明だった。
 訳の分からないことが多すぎ……。
 頭が混乱して、言葉が出なかった。
 私と同じく困惑した表情の奏が、口を開く。
「とりあえず………。あの二人が仲良しだということと、この場にやってこないだろうってことは分かったな……。いつの間にか、もう5時を回ってるし」
「ほんとだ」
 奏の言う通り、いつの間にか5時を過ぎたようだ。
「ま、まぁ……とりあえず何か注文するか。せっかくの厚意だし」
 曖昧な笑顔を浮かべて、奏が言う。
 私も賛成し、二人でメニューを見始めた。



 それからの私たちは、たわいもないおしゃべりをしつつ、フランス料理を堪能した。
 こんなに本格的なフランス料理は、生まれて初めて食べる。
 奏も私と同じらしく、私たちはお料理の話で盛り上がった。
 最近、奏と私の間には、何となく気まずいような空気が流れることがあったけど、お料理の話題のおかげで、そうしたものを感じずに済んだ。
 お料理と……そして、鉄平君と瑠璃に感謝しなくちゃ。
 こうして、イブの夜、奏と二人でお食事できたんだから。
 しかも、こんなにおしゃれなお店で。