「で、ちょっとお誘いなんだけど、明日の夜、予定あいてる?」
 カフェにてアイスティーを注文し、席につくと、鉄平君が切り出した。
「あ、えっと、大丈夫だけど……」
 まさか、奏と過ごす予定などはないから。
 ほんとは奏と過ごしたいけど……。
「夜、二人で出かけない? あのお店で食事したあと、駅前でイルミネーションでも見ようよ。そういえば、麗と瑠璃と奏は、こないだ見たんでしょ。俺、実はまだ見てなくて」
 あのお店っていうのは、きっとグラン・オルロジェだろう。
 で……明日はイブ……。
 イブの夜に二人で食事……そして、イルミネーションへ……。
 恋人っぽい、すごく。
 言葉に窮している私の様子を見て、困ったような表情で鉄平君が言葉を続けた。
「困らせてごめん。そりゃ、俺だって、まだあの告白の返事をもらってないってことぐらい、分かってるよ。でも、返事がどうとか関係なく、ただ一緒に過ごしたいだけなんだ。俺としては、明日一緒に出かけてくれるだけで嬉しい」
 鉄平君ほど素敵な男子から、こんなことを言われるなんて……。
 もちろん、嬉しくないはずがない。
 でも……でも……。
 私はやっぱり奏が……。
「あの、えっと……お返事、遅くなってごめんね……。えっと……」
「ああ、ストップストップ!」
 なぜか慌てた様子の鉄平君。
 どうしたのかな。
「今、告白の返事、『ごめんなさい』を言おうとしたでしょ。待ってってば。もう一度、明日一日でいいから、チャンスが欲しい。その後で、断ってくれてもいいからさ」
「え? いや……別に今、断ろうとかしてなくて……」
「あ、そうなの?」
 鉄平君は苦笑いを浮かべる。
「まぁ、それはともかく。明日、何も予定がないのであれば、俺と一緒に過ごしてくれないか? もちろん、あの店で食事して、駅前のイルミネーションを一緒に見る……それだけでいいから。俺は、全力で、麗を楽しませるからさ」
 笑顔で言う鉄平君。
 私は悩んでしまう。
 明日、瑠璃は家の用事があって、忙しいという。
 そして、私には、奏を誘う勇気はない。
 バイトもないし。
 つまり、何の予定もない。
 結局、寂しいイブになりそうだし……それなら……。
 だけど、こんな気持ちで、鉄平君と過ごすなんて、失礼なんじゃ……?

「もし、つまらなく感じたら、途中で帰ってくれていいからさ。ダメかな?」
「ええっ?」
 鉄平君、そこまで……。
 そんなにまでして、私なんかのことを……。
 そのときだった―――。