翌朝11時、瑠璃と私は、約束していた通り、カラオケボックスに入った。
 それまでにも会話はしたけど、「詳しい話は、部屋に入ってから」と瑠璃が言うので、昨日のことなどは詳しく聞かないまま。

「瑠璃、どうしたの? 今朝から、やけに嬉しそうな気がするけど」
 部屋に入ったので、「もうそろそろ、話を聞いてもいいかな」と思い、私が切り出す。
 正直、気になって気になって仕方がなかった。
「さっすが、麗は鋭いにゃ~。んにゃ、奏君に告白しちゃった」
「えええっ?!」
 呆然と固まる私。
「まだオッケーはもらってないけど、脈ありと見てるのだ!」
 瑠璃は嬉しそうに言う。
 本当ならここで、「よかったね」とか言わないといけないはずなのに、言葉が出ない。
 奏はどうするんだろう。
 すぐに言わずに保留しているというその態度を考えると……瑠璃が「脈あり」と見るのも、あながち見当外れではない気がした。
「そ、そっか……。返事が気になるね……」
 やっと、それだけ言うことができた。
 実際、本当に返事が気になって……。
 その時、「私、もしかして……奏がお断りすることを……心から願ってる?」と気づいた。
 そしてまた陥る、激しい自己嫌悪。
 なんて、最低なやつなんだろう、私って。
 親友の恋を応援するどころか、そんなことを考えるなんて……酷すぎる。
 でも……奏と付き合いたい……私も。
 言い出せないけど、そんなこと。
「あ、ごめんね。びっくりしちゃって……」
 慌てて、私は取り繕った。
「んにゃ、気にしない気にしない。そりゃ、びっくりでしょう」
 無邪気に笑う瑠璃。
「んで、そっちはどうだった? 鉄平君とのラブラブデートは」
「え、あ……その……。ここだけの話、私も告白された……」
 私は打ち明けた。
「マジか! つ、付き合うのかえ?」
 さすがに驚いた様子で瑠璃が言う。
「すぐには返事が出来ないということで、保留中……かな。鉄平君には申し訳ないんだけど。でも、中途半端な気持ちでお付き合いを始めることのほうが、申し訳ない気がして」
「麗、さっすが~。その心遣い、泣かせるねぇ~」
 大げさに涙をぬぐうふりをする瑠璃。
「でね、麗と奏君は、仲良しじゃん? だから、彼の趣味とか、色々教えてよ! もっともっと奏君を知って、そしてアタックを続けるのだ!」
 屈託なく笑う瑠璃を見ていると、ますます胸が痛くなる。
 私……どうすれば……。
 でも、この段になっても、奏に告白する勇気は出てこない。
 たとえ、鉄平君の告白をお断りする勇気が出てきたとしても。



 その後は、話題を変えたり、歌ったりして、瑠璃と一緒に過ごした。
 時々、私は上の空で、瑠璃に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど。
 瑠璃はそんな私の様子を、たまに不思議そうに見ていた気がするけど、何も言ってこなかった。
 きっと、鉄平君の告白について考えてるんだと、誤解されているんだろう。
 本当は、奏のことを考えていた私。
 もし、瑠璃とお付き合いすることになれば、私との遊園地デートの約束なんか、果たされることはないんだろうな……。
 深く考えると涙が出そうになるので、なるべく平静を装いつづけた。