鬼神さながらに異常なスピードで突っ走るゼウス。
当然リフトは揺れるが、そのあとを行くタナトスがひたすら謝り倒していく。
なんて素晴らしいチームワーク。
後でゼウスが殴り倒されるのは目に見えている。
ゼウスの金の髪がキラキラとあたりに光をばら撒きスパンコールのような輝きを放つ。
タナトスのひどく華奢な体にまとったローブのような裾がひらひらとはためき、雪より白い肌を際立たせる。
時折危うげに触れ動くワイヤーを渡る二人は、異様な容姿と行動によってとても人間とは思えなかった。
精霊のように儚げに
鬼神のように恐ろしく。
あまりに目立つ二人組を夢でも見るかのように周りは眺めていた。
二人だけが、別世界にでも行ったかのように…
しばらくしてドンという不穏な音の後黒いものが二人をかすめていった。
それを皮切りに、次々と飛ぶ銃弾。
戦乱の予感を感じたかのように快晴のはずの空には灰色の雲が立ち込めはじめ、わずかな光が注いでいた。
「…おい、降りてどうするんだよ」
「下にいっぱい雑魚がいるんだよ」
「…頂上からでもよかったろ」
「中腹からのがいいんだよ」
「…飛び降りる気か」
「お前はやめといたほうがいいんじゃねーの」
「俺はいい。お前もカバーしよう」
「いらねーや。ちょっとボハッてなるだけだ」
「…とか言ってる間に来てるんだが」
「ざっくり行っちまえ!」
「…」
にかっと無邪気な笑みを浮かべるゼウスにタナトスは無表情で返す。
冷たいよというゼウスに無感情にいくぞといえば、ゼウスはおどけて微笑んだ。
「せっかくの美貌が台無しだぜ」
「…」
中腹あたりから飛んでくる銃弾を無感情に見つめたタナトスは、赤い髪を振り払い、軽く頭を下げてからトランポリンの原理で反動をつけて林を飛び越えコースに出た。
追うようにゼウスはさらに大きく躍動し飛び上がる。
コースの中腹、敵の狙撃手が待ち構えているであろうところへと二人は宙を舞った。


