風が、吹いた


「お前達っ、こんなことが許されるとでも思っているのか!?」




前方を見るべきか、後方を見るべきか決めかねて、男がきょろきょろしながら叫ぶ。



この異常事態に、運転手も一緒になって出てきて、携帯で助けを呼ぼうとしている。




「…待て。」




コツ、と杖をつく音と低く響く声に、2人の従者はピタリと動きを止めた。




「邪魔だ、若いの。」




ドアの傍に立っていた浅尾が道を譲る。



ゆっくりと厳かに車から降り立った老人は、真っ直ぐに自分を見つめる加賀美と向き合った。




「加賀美を捨てた人間が、ワシに何の用じゃ?」




静かに問われた言葉は、批難めいていた。