「あなたには真実を知ってもらいたかったこと…あとは…幼なじみとしてのよしみ…かしらね。」
考えるように視線をくるり、さ迷わせた後、真っ直ぐに私を見つめる。
「あなたは…置いていかれた訳じゃない。愛されて、守られていたのよ。」
震える声で、そう言うと、彼女は去って行った。
彼の居る病院名と部屋番号が書かれた一枚のメモを残して。
一瞬開いた戸の隙間から、鋭い寒さと雪が一片、中に舞い込んだ。
ぼやぼやとしていた、まとまらない考えが、ひとつの線に繋がったような気がした。
ペタンと、玄関の前の冷えた廊下に、力なく座り込む。
―そうか。
だから、先輩は、、、私の前から、何も言わずに、姿を消したんだ。
さよならも言わずに。
自分と一緒に居ることは、私を傷つけることだから。
自分に弱さはあってはいけないから。
曖昧な関係。
彼の言葉や、痛み。
抱えているものを決して話そうとしなかったこと。
ふとした時の、苦しい表情や切ない顔。
別れる前に、背中に預けられた重み。
その全ては、
私を守るため。
そして今も、
私を守って苦しんでいる。


